数年前になるが2020年のダボス会議では「株主至上主義」から「マルチステークホルダー主義」への転換が提唱された。企業としての経営スタンスが大きく変化している。それまでの「株主第一主義」を改めるという内容だった。今後は株主だけではなく、「顧客」や「従業員」や「社会」に対しても配慮していく経営に切り替えていくべきであるという声明であった。
理由としては言うまでもなく地球環境からの視点であるサステナビリティ関心の高まり、資本主義経済の行き過ぎによる持つ者と持たざる者の二極化が進み、営利を追求する企業としても今後はESG経営にシフトしていくべきであると判断されたからだ。しかしこれは日本では古くから言われてきている「三方よし」という考え方だ。
日本では平成時代の失われた30年の模索の中で、いつも米国をお手本としてマネジメント手法を取り入れてきた。例えば企業の成果主義導入や短期的業績志向の高まりであった。長期的な視点で大きな戦略を練るというよりも米国型の直近の数字目標クリアを重視するという経営だ。当時はバブル崩壊後の低成長期に突入していた時期であったことから、どうにかして抜け出すことを模索している中で、好調であった米国流が日本に紹介され、代替案が無かったために大企業から次々に導入していった。
日本には開国以来、欧米の舶来ものは日本のものより優れているという潜在的な意識や劣等感が根本に流れているのか、あるいは自信を喪失してしまったのか、経営手法に関しても米国のほうが先を行っていると考えられているのかもしれない。ではその米国流を導入して結果はどうだったか。平成の30年間を見ればよく分かる。
ではどうすべきだったのか。またどうすべきなのか。
日本は米国の文化とは異なる文化や思想を持っている。日本には日本人として持っている強みを活かすやり方があるのではないか、昭和の時代は集団としてチーム力を発揮することで高度成長を果たしてきたからだ。個よりもチームとして互いに協力し合う中でやりがいや充実感を感じ、結果として100%以上の力を発揮するのではないか。
例えば、日本電産はその経営のやり方をこの30年間変えなかった。周囲からのノイズはあったと思うがそんなことは気にも留めず永守経営をずっと続けてきている。現在ではブラシレスモーターの領域では世界の約50%のシェアを持つ。
自社の業績が悪くなっていく中で藁をもすがりたいとき、好調であった米国の経営のやり方を真似したくなる気持ちは非常に良くわかるが、そもそも日本とは異なる風土の中で進化した経営手法を真似したことで遠回りをしてきたのではないかと思う。日本や日本人の独自の強みを活かした経営手法があると考える。