前回ブログの「自動車業界は100年に一度の変化をどのように乗り越えようとしているのか?(自動車OEM編)」にて述べました通り、今、自動車業界には大きな地殻変動が起きています。自動車OEM、自動車ディーラー、部品会社、整備業界を一気に巻き込んでいこうとしています。
今、世界のEVシフトは加速しています。そのEVシフトの中で主導権を握りたいEUは2035年にガソリン車の新車販売を事実上禁止しました。ベンツも2030年までに新車販売は全てEVのみにすると宣言しています。
EU域内では2035年からは自動車は「EV」しか販売できなくなります。フランスもドイツもEVシフトすることで自国が自動車産業の花形に返り咲くことを考えています。
EUの素早い動きは、日本の自動車OEMの本格的攻勢が入らないうちに、その地位を確保しようと考えていると思われます。現在、日本ではホンダがEVシフトの方針を鮮明にしています。2040年には全てのホンダ車の新車販売をEVにすると宣言しました。
また、トヨタは独自戦略を描いています。水素エンジン車、EV、FCV、ハイブリッド車の4タイプでの対応を考えています。今後どのような状況になっても的確な対処ができるように間口を広く取った「戦法」を取ろうとしているものと思います。
トヨタは、日本はまだEV環境になってはいないと述べています。日本ではエネルギー事情においてEV化するほど火力発電が必要になり、逆にCO2は増加してしまうと推測しています。ちなみにフランスは、75%が原子力発電であることからEV化してもCO2は増えない状況にあります。
EV化は自動車産業労働者にとっては「痛み」を伴うことになります。ドイツの場合、現在160万人の自動車産業人口が、EV化によって130万人に減少するだろうと言われています。既にドイツでは雇用の削減が始まろうとしています。ルノーは3年後に工場の1つを閉鎖することになれば雇用の40%が無くなるだろうと推測しています。
日本では約550万人の自動車産業人口が、約450万人にまで減少するだろうと言われています。ホンダもエンジン工場の1つを閉鎖することを考えていると言われています。
これに伴って下請け企業の工場では仕事が無くなる可能性が考えられるといいます。その工場では自動車部品以外の新規製品を開発しようと既に力を注いでいる状況にあります。
日本の大手部品メーカーでは、世界のEV化への波に乗りたいということから成長が著しい中国EVメーカーと組むところも出てきています。
EVの最も重要な「要」になっているのはバッテリーです。EVにおいてバッテリーは「心臓」と言われています。ガソリン車の場合はエンジンが心臓でした。
そしてこのEVのバッテリーは、現在、中国の「CIV」の独占状態にあります。世界のEVメーカーに供給しているのです。既に30分の急速充電で300km可能になっているといわれています。
そんな中で今、次世代バッテリーと言われているのは「全固体電池」と呼ばれる電池です。
現在のリチウムイオン電池は、リチウムイオンの働きで電気が発生する仕組みです。
全固体電池の基本的な仕組みはリチウムイオン電池と変わらないのですが、中身の電解質が「液体」ではなく「固体」に変わるというものです。
この電解質を「固体」に変えることで、メリットは大きく広がるといわれています。懸案であるEVの走行可能距離が大きく伸びるからです。それゆえ現在、各自動車OEMでは、この全固体電池開発の熾烈な開発競争が繰り広げられているのです。
もし今後、この「全固体電池」の開発で、日本メーカーがリードしたとすれば、リチウムイオン電池からの移行が一気に進むものと考えられています。それは「電池革命」を起こし「ゲームチェンジャー」として一転、日本が「有利なポジション」をとることが可能になります。それはEV市場においても、日本が最先端を行くことを意味しています。
そして、バッテリー以外にも、もう一つのポイントがあります。現在EVは株式市場においても、同様にもてはやされているように見えますが、テスラも黒字化できたのはつい最近のことでもある通りEVは先行投資が膨大になってしまいます。
つまり、黒字化できるまでにEVメーカーのキャッシュフローが続くのかという大きな問題が根本に存在しているのです。これは今後EV市場に新規参入を考えている企業にとっては大きな課題となってくるものと思います。
したがって、EV化の最終的な勝ち組になるためには、長期レンジでのEV化への投資や自動運転技術への投資が続けられるかどうかという点が大きく左右してくるのです。
つまり、それは現在のガソリン車販売によって、既に企業が大きな収益を確保できており、財務的にも強固な体質をもち、さらに研究開発に膨大な投資ができるということが最終的な勝ち組になるための必要条件になっていくものと思います。
トヨタは全方位戦略ともいうべき「構え」で、この100年に一度の大変化を乗り越えようとしています。複数の「選択肢」を残しておくという戦法であり、これは財務体質の強固なトヨタしかできない戦法でもあると思います。
今回の変化によって、ガソリンエンジン車からEVシフトという大きな潮流を捉えて、従来の自動車OEMだけでなく、新規参入企業、サプライヤー企業が、まさに三つ巴になって
次世代プラットフォームの地位の確立を狙っています。
ガソリンエンジンプラットフォームからEVプラットフォームの供給という製品変化に関わる新規ビジネスにおいて、自社が覇権を取りたいと競い合ってくるものと思われます。まさに戦国時代ともいえるような様相になっていくのではないかと思います。
このように自動車産業における大きな変化は、少なからず、わたしたちの生活にも変化をもたらすのではないかと考えます。モビリティ、移動体としてのクルマは将来にわたって人間の生活には欠かせないものだからです。
これまで日本は世界の中で自動車大国としての存在感を際立たせてくることができました。しかしながら万一、今回の変化を上手に乗り越えられないとなると、他国にその地位を奪われてしまいかねません。
そうなると稼ぎ頭の商品を失った企業のように日本経済にも大きな影響が出てくるものと考えられます。その意味からも注視していくことが必要であると思います。