これまで「クルマ編」及び「自動車ディーラー編」について私見を述べて参りましたが、今回は「自動車整備分野編」です。
今回の「100年に一度の変化」においては、自動車の整備業界においても極めて大きな変化とその対応を余儀なくされていくものと思います。
まず、自動車整備業界は現時点で、今後を見据えた場合、どんな「課題」を認識しているのでしょうか。ざっくりとキーワードを列挙すると次のようになるとと思います。
<キーワード>
人口減少、少子化、お客さま高齢化、保有台数減少、高度電子技術化、高度電子技術知識の習得、自動車整備専門学校への入学希望者減少、サービスメカニック希望者減少、OBD車検制度導入、整備業者の後継者問題
これらのキーワードをわかりやすくすると次のようなことが言えると思います。
人口減少や少子化は言うまでもないと思います。「お客さま高齢化」とは言いかえると次のような表現になります。
■クルマ所有者自身の高齢化に伴うお客さま数の減少
今後、後期高齢者層になっていくにしたがって、自ら運転免許証を返納するユーザーが増えていくものと思われます。さらに自動運転やシェアリングサービスが増えていくことでも、そのことを後押ししていくでしょう。
現在は、いわゆる「団塊の世代」が後期高齢者に突入し始めた段階ですので、今後「団塊の世代」が免許書を返納してクルマを持たなくなる、あるいは新車を購入しなくなっていくことにつながっていくでしょう。これは今後、自動車ディーラーや整備業者にとっては深刻な問題になっていきます。
■国内の自動車総保有台数及び車検実施台数の減少
今のところ自動車の保有台数は横ばいで推移していますが、今後は高齢化の影響を受けしだいに減少に転じていくものと思われます。
当然のことながら人口が減少していけばクルマを持つ人も減少します。クルマが減れば車検を取得する必要もないわけです。これも今後ジワジワと影響が出てくると思われます。自動車整備業界にとっては死活問題となってきます。
■一般整備業者における後継者問題
現時点においても多くの整備業者において経営者が高年齢化しています。しかし、なかなか後継者が見つからないという深刻な問題を抱えています。現時点においても約3割の整備業者では後継者がいないといわれています。後継者が見つからないとなれば自主廃業やM&Aが増加していくものと思われます。
■サービスメカニックの高齢化
日本自動車整備振興会連合会の「自動車分解整備業実態調査」によると、2019年度における自動車サービスメカニックの平均年齢(自家除く)は45.5歳ということです。
サービスメカニックの平均年齢は年々上昇していくことが予想されています。さらにサービスメカニックの数も年々減少しているという状況にあります。
そして追い打ちをかける形で、サービスメカニック志望者数の減少という事態も発生してきています。日本自動車整備振興会連合会の「自動車整備白書」によれば、2018年度の自動車大学校・整備専門学校の入学者数が学校全体の定員数1万2,674人に対して8,124人に留まり定員数の7割に及ばなかったことが報告されていました。そしてこのような傾向は続くものと思われます。
■クルマの電子化進展に伴うサービスメカニックの教育研修体制の構築
クルマに搭載されるECUは今後電子化の進展に合わせて数も増えていくものと思われます。ECUは高度な電子技術によって製造されていることから、その取扱いに関する専門知識や技術については高度技能が必要になってきます。
電子化の進展に合わせてサービスメカニック自身が、高度な専門知識や技能を身につけていかなければなりません。
そのための研修費用だけでも今後大きな額となるものと思われ、これまでのように各社が単独で研修を実施していくことは困難になっていくものと考えます。
上記のような状況が今後推測されるとすれば、これまでのようにディーラー個別による課題対応は難しくなっていくものと思われます。つまり、ディーラー1社単独では効果的対策が取れなくなってくるということを示していると思います。
今後の自動車ディーラー整備業態のキーワードは、「協業」が当てはまるのではないかと考えます。
従って、今後は地域的な協業等によって「生産性向上」と「経費削減」を同時に追求し実現させていくという方向を取らざるを得ないのではないかと考えます。
例えば、今後は1社単独でのサービス工場の展開は困難になっていくのではないでしょうか。
理由は少子化、サービスメカニック希望者の減少、保有台数の減少等により単独対応では採算が難しくなっていくものと思われます。
今後は県内同系列ディーラーによる合同による集中車検センターや集中板金工場などが想定されるのではないかと思います。
同系列ディーラーによる県内1ヶ所、もしくは数か所の各機能の集中センターを設定し、さらにOEMからオフラインし、輸送されてきた新車の集中プールセンターの確保、車検実施台数の安定化、サービスマンの人数確保、サービスマンの集中研修、車検効率の向上と平準化、物流の効率化と輸送効率の向上による大幅な経費削減が見込まれるものと思います。
そこにDX導入による、お客さまのクルマ引取りから車検点検等の実施、お客さまへの納車までの各プロセスを、DXという切り口で効率化していくことが可能であると思います。
<圏内ディーラー協業化による生産性向上と経費削減>
1.集中車検センター、集中車両プール、合同物流効率化による生産性向上
2.DX化による車検プロセス工程の短縮化と効率化、及び仕事量の平準化、サービスメカニック人員配置の最適化
3.サービスメカニック合同研修による自動車整備技術の高度化対応と経費削減
上記はOEM傘下の正規自動車ディーラーを想定していますが、これに加えて各地域の協力工場や自動車整備工場も参画していくことも可能ではないかと思われます。その際は台当り利用料等を設定していくことができると思います。
このような取り組みによって更なる顧客サービスの向上を自動車整備分野で実現していくことが可能になります。
この体制のなかで、今後EVが中心となっていく自動車業界においては、さらに作業自体のシンプル化を推進していくことが可能になるのではないかと考えます。
それは例えば、EV車が故障や不具合発生等で自動車ディーラーに入庫するとスキャナーをクルマに接続する。そしてスキャナーが短時間で車両本体のECUをすべてチェックし、故障しているECUを抽出する。そのECUを丸ごとアッセンブリ交換してしまうことになるのではないかと思います。
ECUのような電子部品は人の手では修理ができないものであり、仮に修理するとしても余程の高度電子技術の知識と技能を持っていなければならないと思います。時間も工数も要してしまうことになり、万一、再修理にでもなったりすれば生産性も落ちてしまいます。したがって具合の悪くなった電子部品は丸ごと新品交換することになると思います。
一方、サービスメカニックも電子技術の加速度的な進展に際して、知識と技能の習熟が追い付かなくなってしまう事態も考えられます。これを単独で教育や研修でクリアしようとしれば、膨大な時間と費用が必要になるものと思われます。
今後の方向性としては、誰がやっても同じ効果が出るようなシステムに変わっていくものと考えます。つまり「早く、安く、正確に」修理が可能になる方向性に進んでいくものと思われます。
そして将来には、車検ルームのようなところにクルマを入れて、人がスタートボタンを押すと、AIロボットがスキャニングから部品交換やタイヤ交換まで全て行ってしまうようなことになるやもしれません。これから自動車整備分野も大きく変わっていくものと考えています。