1年前に話題になっていたことに自動車業界に訪れている「100年に一度の変化」というものがありました。実際に来ていることはわかっているのですが、現在どのような状況になっているのか?
主役である自動車業界のOEM、自動車ディーラー、自動車部品サプライヤー(Tir1,Tire2等)はいったい今何をしているのか?しようとしているのか?を考えてみたいと思います。
現在の日本の自動車業界、OEM、自動車ディーラー、自動車部品サプライヤーは大きな変化をどのように乗り越えようとしているのでしょうか? 今後、従来のアナログモビリティからデジタルモビリティに変わることができないとすれば、欧米や中国のIT企業に太刀打ちできなくなることは見えています。
大きな変化のまさにその中心に位置するOEMは、従来のハードウエア中心カンパニーから、いかにソフトウエア中心カンパニーにシフトできるかが生き残りの条件になっていることは間違いありません。
この100年に1度の大変化を起こす要因は、よく聞こえてくる「CASE」というキーワードで表現されています。CASEとは、コネクティッド、自動運転、シェアリングサービス、電動化の4つの新しい潮流ということです。
このCASEの中で、一番わかりにくい「コネクティッド」とは、個々のクルマが「IoTの世界」の一部となることを意味するのです。OTAと呼ばれるシステムです。
そして、つながる車(コネクティッド化)というのは、単純にいえばクルマの「スマートフォン化」ということが言えると思います。人が「乗って、走れる、スマートフォン」ということです。それはあたかも「スマートフォン」のように日常生活の中で「情報端末」として利用することができるようになるということでもあります。
通信キャリアから、常時最新バージョンがダウンロードされてくるように、クルマの部品として構成されている各種電子ディバイスに対して、常時、OEMからの最新バージョンがダウンロードされアップされます。
したがって、長期間に亘って使用するクルマであっても常に最新最適な性能機能を保持するようになっていくということです。まるでスマートフォンの自動バージョンアップ機能のようですね。
それは同時に、車内外のさまざまな情報、走行状況、車両状態、セキュリティ状況、道路状況、路面状態、天候状況等のデータをインターネットや各種センサーによって認識し、ドライバーや乗員に対して、適宜タイムリーに情報提供や色々な提案をしてくるということでもあります。
クルマのデジタル化、IT化が進展することによってクルマは「電子技術の塊」に変化していきます。現時点でも例えばECUは多いクルマになると100個以上が搭載されています。
その技術によって、例えば一人ひとり毎にクルマをカスタマイズしていくことも可能になります。自分だけのオリジナルなクルマを持つことができるのです。
といっても、それはデザイン形状という意味ではありません。クルマに備わるソフトウエアという領域においてです。
例えば、ドアを開けてシートに座った瞬間、自分に最適なドライビングポジションで車内に迎え入れられるということです。適正なシートポジション、適正なバックミラー角度、適正なルームミラー角度等、自分の体格や姿勢に最適な運転しやすいポジションをクルマが覚えているということです。
さらに、好きなバックグランドミュージック、好きなスポーツの情報取得、好きなタレントのエンタメ情報等々、あたかも自分の部屋で心地よく過ごしているような状態で移動できるイメージです。
つながっていることによる情報収集はこれだけではありません。OEM側からもさまざまな情報提供やアプローチがあるでしょう。
例えばマーケティングディビジョンから、さまざまなカーライフに対する提案、車検入庫の案内、試乗車の案内、新型車の情報、新車展示会の案内、シーズンキャンペーンの案内なども届くようになるということです。
そして重要なことは、OTAでつながっている商品であるクルマは、従来の商品とは異なり、販売した後がOEMにとっての大切なお客さまとの「接点の場」になるということであります。
昔、TVで「ナイトライダー」に出てくるナイト2000という「話しかけてくるクルマ」が登場していました。個人的には、これの現代版が現実になるのではないかと考えています。
例えば、「そろそろお昼です。次のサービスエリアまで7キロです。休憩を兼ねて食事を取りませんか?最近、話題のラーメン餃子を食べさせてくれる〇〇中華料理屋さんがあります。予約しますか?」とか、「右の後輪の空気圧が低い状態です。このまま高速道路を走るとハンドルのブレ発生と燃費に影響が出てくる可能性があります。次のサービスエリアまで5キロです。電気充電スタンドがありますので一緒に空気圧も補充しますか? OKならばすぐに予約します。」とか、「このままあと8キロ走るとカーディーラーがあります。そこに新型〇〇〇が試乗車として準備されています。試乗されますか? OKならば予約します」とか、「左右の後輪タイヤがスリップサインまであと2ミリです。約5ヶ月で摩耗します。あと6キロでカーディーラーがありますので、そこでタイヤを交換しますか? OKならば予約します」というような色々な提案が運転しているドライバーに伝えられるようになると思います。
まるでスマートフォンのsiriやアレクサみたいですね。もちろん、この時、車内のドライバーは自動運転で目的地に向かって快適にドライブしていることと思います。こうなってくるともはや「友達」のようですね。すごいことだと思います。
モビリティのあるべき将来を見据える中、OEMのみならず、グローバルなIT企業は着々と準備を重ねています。中国のアリババでは5G技術を使って、地域を走り回る無数のクルマのあらゆる走行データを日夜収集しています。
これらのビックデータを分析することで地域全体や圏内全域のトータル的な交通ネットワークの知見を深めているのです。圏内全域における交通インフラに関わる情報を入手することで、後に色々な付加サービスやモビリティビジネスとして他分野に活用することが可能になります。恐るべき狙いですね。今後、さまざまなモビリティ関連ビジネスが展開されてくるでしょう。
さて、これまで自動車は100年以上もその燃料をガソリンや軽油とする内燃機関(エンジン)でした。日本の自動車OEMでは、その間ずっとこの内燃機関の精度向上に力を注いできたのです。その結果、今やガソリンエンジンやディーゼルエンジンの内燃機関は、精密機械としては、既に「芸術品」とまで言われるレベルまでその精度を極限まで高めることを実現したのです。
しかしながら、このエンジン機関の開発に膨大な時間と工数をかけてきたという事実と体験自体が、この先、「足かせ」になってしまうやもしれません。
なぜなら、今後サードパーティと呼ばれる新規企業が参入してくることが予想されるからです。彼らは莫大な経験とノウハウが必要になる燃焼エンジンではなく、シンプルな構造の電動モーターを活用することから容易に参入することが可能だからです。
これまでOEMが莫大な時間と工数をかけて必死にノウハウを蓄積してきたことを、これらの新規参入企業は、新しい領域に存分に振り向けることが可能になります。それはまさにCASEの領域です。
これまでOEMにとって得意分野だった領域が、あっという間に別のものに置き換わってしまうということでもあります。
OEMはこのことを事実として捉え、新たな領域への開発にエネルギーを注力することに気持ちを入れ替えることが求められます。もちろん現在OEMは動き始めています。
ただ、OEMはこれまでのエンジン等を中心とするハードウエア中心カンパニーであったこと、その成功体験が逆に「変化」へのスピードを鈍らせてしまうことがあるとすれば、ますます遅れをとることになりかねないということです。
サードパーティや新規参入企業は、ソフトウエア中心カンパニーとして、いきなり「クルマのスマートフォン化」を目指してきます。そのスピードは恐ろしいくらいです。
つまり、新規参入企業は、スタート位置からソフトウエア中心カンパニーを目指せるという点では、現OEMからすれば数段階レベルのアドバンテージを持つことができるといえると思います。
従来からのOEMにとっての最大の想定外は、従来、自動車からは遠い「領域」であった「IT領域」の知見を持ったIT企業が続々と自動車産業に参入してくることでもあります。
テスラやテンセントのNIOが良い例です。これらの企業は「コネクティッド」の領域では、既に圧倒的というほどの知見を持っています。それが「売り」となりテスラなどはトヨタ自動車の約2倍以上の時価総額になっている状況です。
このようなIT企業と国内自動車OEMは戦って勝利していかなくてはならないのです。あたかも「異種格闘技戦」に無理やり出場し戦わなければならなくなったような状況に似ているとも思ってしまいます。
日本のOEMは、その意味でスタンスを変えることが大切であると思います。
これまで通りのTire構造を利用した開発体制オンリーではなく、例えば、核となるソフトウエア開発はどのように開発していくのか、強固な系列ディーラーをどのように共存していくのか、重要電子部品をいかに開発するのか、単独で内製化するのか、サプライヤーと共同開発するのか、そしてお客さまとの接点をいかに確保し拡大していくのか等々だと思います。
そして現在、各OEMはこれらのポイントに軸足を置いて非常にダイナミックに考えています。これらを本気で取り組まなければ、またソフトウエア中心カンパニーに変身することができなければ、新勢力にマーケットを奪われかねません。それほど重大なことだと私は思います。