世の中のどの商品自体にも成長曲線があるように、経営する事業にも成長曲線と呼べるものが存在しているものです。私たち企業経営者は、ある主力商品や主力事業が成熟期後期に達したところで、次の会社の売上げを担う新商品や新事業を開発しようとするものです。そのことに経営層のエネルギーが注がれるということもよくあることです。新商品開発は企業にとっての生命線でもあるでしょう。
ところが、このような考え方を覆すような事実があります。それは、1つの主力商品や主力事業で、世界一の地位に飛躍している大企業がいくつも存在しているという事実です。
その事実が「ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則」(ジェームズ・C・コリンズ著)の中で述べられています。コリンズ氏らは、各分野における世界一の企業を、その成り立ちから世界No.1 へ飛躍したプロセスを数年間かけて膨大なデータとともに詳細に分析を実施しました。
そして、結論として、世界No.1 のポジションを獲得しつつ時代を超えて存続してきた企業における成功の法則を述べています。私が一番驚いたのは「ハリネズミの概念」というものでした。
それは世界No.1 にまで飛躍し、現在もその地位を確保している企業は、いずれもハリネズミのような「単純明快な戦略」を取り続けていると言います。偉大な企業はすべてハリネズミ型であると述べています。
では、ハリネズミとは一体なんでしょうか? それは小型動物の1種ですが、見た目は鈍感で冴えない動物に見えます。ところが、たった1つ肝心かなめのポイントを知っていて、常に自分より強い動物から襲われても、その1点から絶対離れないため食べられることはありません
自分より大きく強い動物、例えば、肉食であるキツネ等に襲われそうになった時、ハリネズミは、体をくるりと丸めて体全体を1つの棘だらけのボールのようになるのです。このことで、キツネなどの大型動物から食べられずに生き延びることができているのです。
世界一に飛躍している企業は、このハリネズミのように、たった1つの肝心かなめのことを知っていて、常にこの1点から離れないと言います。しかも、この肝心かなめの1点とは、「信じがたいほどの単純さである」と言います。コリンズ氏は「どれも単純で単純で、思い切り単純なアイデアである」とも表現しているほどです。
一方で、この「思い切り単純な戦略」にたどり着くまで道のりが、どのNo.1 企業においても平均4年間も試行錯誤した末にやっと見出しているという事実があります。そして、見つけるに至った「単純で明快な概念」こそが、コリンズ氏の言う「ハリネズミの概念」と呼ばれるものであると述べています。
ではこの「ハリネズミの概念」とは一体何でしょうか?
それは、次の「3つ」の要素が必要になると言います。「3つ」の要素が「重なる部分」を、探索し突き詰めていくことで発見することができるものだと言います。
1つめの要素とは、「自社が世界一になれる部分はどこか」という要素です。この場合の世界一になれるという基準は、コアコンピタンス(中核的能力)がどこにあるかというレベルではなく、それよりも、はるかに厳しい基準で、世界一の企業によって判断されていると述べています。
2つ目の要素は、「経済的原動力になるのはなにか」ということです。世界一に君臨している企業は、いずれもキャッシュフローと利益を継続的に大量に生み出す効率的な方法を見抜いているのです。
財務実績に大きな影響を与える分母を1つ抽出しているのです。それを「X当り利益」というKPI(重要指標)目標として設定しています。
つまり、この「X」に「何を選ぶか」がポイントになるのです。そして、その選択した「X」を長期間にわたって向上させ改善させていくことで、自社の経済的原動力に、最大限大きな影響を与えていくことが可能となるのです。
世界一まで飛躍した企業が、何をこの「X」にしているのかと言うと、例えば、「従業員1人当たり」であったり、「地域あたり」であったり、「顧客1人当たり」、「鉄鋼製品1トン当たり」、「地域の人口千人当たり」、「来客1人当たり」・・等々です。世界一にまで飛躍した企業は、このような独自KPI(重要指標)を発見しているのです。もちろん、その業界業種、企業によってKPI内容は異なってきます。
そして、3つ目の要素は、「情熱をもって取り組めることは何か」ということを突き詰めていることです。従業員全員が情熱をかきたてられる事業にフォーカスしているのです。「どうすれば情熱を持てるか」ではなく、「どのような事業ならば情熱を持てるか」という観点です。
これらの3つの要素を、もっと簡単に理解するには、例えば、自分の仕事について同じように考えてみることだと言います。
1つ目の要素は、「自分が持って生まれてきた能力にピッタリの仕事」であり、自分はこの仕事をするために生まれてきたのだと思える仕事であるということです。
2つ目の要素に、その仕事を行うことで「十分な報酬が得られる」ということです。
3つ目の要素として、その仕事に情熱を持っており、「好きでたまらず楽しいと思える仕事」であるということです。
これら3つの要素の「重なる部分」の仕事の内容こそが、まさに著者コリンズ氏のいう「ハリネズミの概念」に該当していく中核的なものになるのです。
そして、この「ハリネズミの概念」というのは、目標ではなく、戦略でもなく、意図でもなく、「理解」であると述べています。No.1 企業はいずれも、この深い「理解」に基づいた上で、その方向性に合致した目標と戦略をそれぞれ設定していると述べています。
世界No.1 まで飛躍したある企業の経営者は、「そんなに複雑なことはしていない。事業の現実を直視して、どこにも負けない事業にできると分かっている少数の部分に全力を集中した。最高にはなれない部分には注意を分散させないようにした」と述べています。
私たちは、つい「隣の芝生」を気にしてしまうものです。いろいろ手を出してしまいがちです。それがヒットする場合もあるものですが、このように世界No.1 まで飛躍した企業というのは、自社のドメインをどこまでも深掘りし突き詰めていく戦略を取っていった末に、結果として圧倒的な競争優位のポジションの獲得につながったのだと思います。
世界No.1 に飛躍した企業は、No.1 になれる部分と、No.1 になれない部分がどこなのかを正確に理解し把握できたことで、世界No.1 になれる部分だけに集中投資したということです。そして、このことが飛躍できた企業と、できなかった企業とを分ける唯一の「違い」になったと述べています。
この「ハリネズミの概念」は、私たち企業を経営する側に、本質的ともいえるような、ブレないという1つの根本的な示唆をしているように思います。