企業が長期的に成長していくには、実にさまざまな条件や要素があると思いますが、最も根本的なことは、誰と一緒に仕事をするのかにあると思います。組織としては整備されていたとしても、共に仕事をしていくパートナーや仲間の「価値観」が一緒でないと、いつかコミュニケーション上の問題が発生する可能性が高くなると私は考えます。
すぐに解消できるようなレベルであれば問題ないのですが、時には組織自体に影響を及ぼしかねない要素を含んでいる場合もあります。そのような状況になると、企業で最も重要な方向性を決めることを、何回会議を行っても合意形成が取れず時間ばかりが過ぎてしまうことになりかねず、結果、適切な行動タイミングを逃してしまうことにつながります。その間に、競合他社は着々と戦略を進めていきます。
肝心の企業戦略に機動的に手を打てずに、社内の問題でまごついてしまうというのは、経営者にとっては悔やんでも悔やみきれないことだと思います。コンサルタントとして色々な会社とお付き合いをさせて頂いていると、多くの経営者がこの問題で頭を悩ませていることが良くわかります。
「ビジョナリーカンパニー2」の著者であるジム・コリンズ氏は、長期的に成長している企業は、いずれの企業も最初の段階で、「バスに乗せる人を選んでいる」と語っています。つまり、会社を立ち上げようという段階で同じ「価値観」の人だけを集めて(同じバスに乗せる)ビジネスを始めているという事実です。
企業が長期間にわたって継続的に成長していくには、最初のチーム作りが大変重要であるという事だと思います。企業がこれから創業するという段階では、この点に十分に注力すれば良いということですが、一方で既に事業を行っている既存の企業にあって、日々事業運営している中で組織構成員の「価値観」の違いが明確になってしまうこともあると思います。後者の方で、多くの経営者が悩んでいるケースが多いと思います。
そもそも既存企業は、採用時点で自社の社風や企業風土に合っている人、仲間としてうまくやっていけそうな人を選抜しているはずです。しかし、人間である以上、採用した社員が成長していく中、長い間には人それぞれの考え方が変わっていくことは十分にあり得ることです。多少の差であれば大きな問題にはなりにくいですが、ケースによっては会社の中で不平不満を口にして職場のモチベーションを下げてしまうことも考えられます。そうかと言って、その従業員の話を聞き入れたりすれば、本人に「声を大にして不平不満を言えば取り合ってもらえる」という勘違いな考え方を社内に作り出しかねません。
若年層社員の場合であれば、異動したり、上司を変えたりと対処法は、いろいろと考えられると思いますが、もっと上の層、例えば管理職層で考え方が大きく異なる人が出てくると、会社にとってはもっと深刻な状況になり得ると思います。こうなってしまうと、非常にむずかしいことではありますが、場合によっては「途中でバスを降りてもらう」ことも考えなくてはならなくなってしまうと私は思います。このような双方にとって不幸な事態は、なんとしても避けなければなりません。
近年、社員の転職がしばしば起こる状況となり、部署に欠員が出ている場合、企業が求めている専門知識や専門スキルを持つ応募者が、必ずしも自社と同じ価値観や考え方の持ち主であるとは限りません。
この時に採用された方が、その専門分野においては大変有能であっても、元からいる会社の方々と「価値観」が違っていては、やがて大きな弊害が生まれてしまう可能性を抱えることになると思います。短期的には生産性が上がっても、何かの問題で会社と異なるスタンスを取るようになると、さまざまな場面で組織として機敏な動きが取りにくくなってしまうことがあると思います。
それだけに、特に管理職人材を新たに採用する際には、「価値観」の見極めは重要であると考えます。可能であれば、部門内からの昇格や社内からの異動を考えていくべきだと思います。
今日では、中途採用は日常的に当たり前に行われています。しかし、いくら必要な専門知識や能力を備えているからといって、「価値観」が合わない人を採用することは、会社にとっても本人にとっても不幸なことであり避けなければならないと私は思います。人を新たに採用するということは本当にむずかしいことだとつくづく思います。